松尾剛行『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(勁草書房,2016年)
久々の書籍紹介。
友人の弁護士松尾剛行先生が,このたび初の単著『最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務』(勁草書房,2016年)を出版されたので,簡単にご紹介いたします。
名誉毀損法といえば,表現の自由と名誉権という憲法上の権利同士が衝突する場面であり,名誉毀損に該当するか否かの判断は法律家であっても困難を極めます。またリアルスペースにおける名誉毀損法についてはそれなりに判例・裁判例が蓄積しているところではありますが,サイバースペース(インターネット)における名誉毀損はどうなっているのか,となると,かなりの部分が未知の領域になります。
本書は,この未開の領域において,インターネットの発展と共に蓄積されてきた2008年以降の膨大な裁判例を取り上げ,分析することで,実務上の指針を得ようとするものです。
取り上げる裁判例数もさることながら,各裁判例の特徴を抽出し,実務上の指針となるような項目の中に整除してしまう力技に,読者は圧巻されるでしょう。
インターネットにおける名誉毀損法のとりわけ実体法(実体的要件部分)について,法律実務家が業務で扱う際に,必須の一冊になると思われます。
動きの速い分野でありますが,この点は,松尾先生によるけいそうビブリオフィルでの連載(http://keisobiblio.com/author/matsuotakayuki/)のより,最新事情はカバーされるようです。
是非,お手にとってみてください!
最新判例にみるインターネット上の名誉毀損の理論と実務 (勁草法律実務シリーズ)
- 作者: 松尾剛行
- 出版社/メーカー: 勁草書房
- 発売日: 2016/02/25
- メディア: 単行本
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【目次】
はじめに
1 インターネット時代の名誉毀損法
2 インターネットの特徴毎の留意点
3 本書の構成
第1編 総論
序章 はじめに
第1章 インターネット上の名誉毀損の見取り図
1 相談事例
2 問題点
第2章 名誉毀損法の法構造
1 はじめに
2 3種類の「名誉」
3 刑事名誉毀損の法構造
4 民事名誉毀損の法構造
5 民事名誉毀損と刑事名誉毀損の相違
第3章 サービス毎の特徴
1 はじめに
2 ウェブサイト
3 ブログ
4 User Generated Contents(UGC)
5 メール
6 SNS
7 リンク・転載
8 インフラ化
第4章 インターネット上の名誉毀損に関する手続法概観
1 はじめに
2 プロ責法
3 削除請求
4 開示請求・ログ保存請求
5 損害賠償請求・名誉回復請求
6 プロバイダの責任
7 刑事告訴
第5章 関連する諸権利・諸法令
1 はじめに
2 プライバシー
3 不正競争防止法
4 肖像権
5 リベンジポルノ
6 ストーカー規制法
7 刑法犯
8 営業権侵害・業務妨害
9 著作権侵害
10 その他
11 名誉毀損が成立しない場合の不法行為の成否
12 債権的名誉毀損
第6章 国際名誉毀損
1 はじめに
2 裁判管轄
3 準拠法
4 刑事関係
第2編 理論編
序章 はじめに
PART 1 事実摘示による名誉毀損の積極要件
第1章 摘示内容の特定
1 はじめに
2 一般読者基準
3 具体的な問題
4 複数の文章の関係
5 摘示内容の単位
第2章 摘示内容が社会的評価を低下させるか
1 はじめに
2 社会的評価の低下の程度
3 社会的評価を低下させたとの認定が比較的容易な場合
4 人格的価値に関する社会的評価の低下に限られるか
5 媒体の信頼性と社会的評価の低下の判断
6 インターネット上の表現の信頼性と社会的評価の低下の判断
7 類型別の検討
第3章 公然性
1 はじめに
2 民事名誉毀損において公然性が必要か
3 対象者のみへの伝達
4 伝播性の理論とその広範な応用
5 不特定・多数
6 インターネットと公然性
第4章 「対象者の」名誉が毀損されること
1 はじめに
2 漠然と何らかの集団全般を対象とする表現
3 組織関係
4 対象者本人に言及しているにもかかわらず対象者に対する名誉毀損が否定される場合
5 本人そのものに直接言及しない場合
6 なりすまし
7 死者に対する名誉毀損
第5章 匿名・仮名による言及と対象者の特定
1 はじめに
2 伝播性の理論の匿名・仮名表現への応用
3 本人を示唆する情報から本人のことだと推測できる場合
4 社会生活との関連性がある仮名
5 インターネット上の人格の社会的評価が毀損されたにすぎない場合
6 フィクションによる名誉毀損
7 基準時
8 その他
第6章 「表現者が」名誉を毀損したこと
1 はじめに
2 表現者の特定
3 共同不法行為
4 表現者が組織の場合
5 情報提供者の責任
PART 2 真実性・相当性の法理
1 はじめに
2 刑法230条の2
3 真実性・相当性の抗弁
4 留意点
5 本PARTの構成
第7章 公共性(公共の利害に関する事実)
1 はじめに
2 プライバシー・私生活上の行状
3 対象者の類型と公共性
4 表現の対象事項の類型と公共性
第8章 公益性(専ら公益を図る目的に出た場合)
1 はじめに
2 公共性のある事項に関する表現であること
3 公益以外の目的の具体的内容
4 表現方法その他の客観的な事情
第9章 真実性(真実であることの証明があったとき)
1 はじめに
2 個別の記載と「印象」の違い
3 重要部分の真実性
4 真実性の証明の程度
5 真実性の判断基準時
6 摘示事実類型毎の特徴
7 証拠・立証に関する類型別の分析
第10章 相当性(その事実を真実と信ずるについて相当の理由があるとき)
1 はじめに
2 相当性判断の基準時
3 相当性の判断要素
第11章 真実性の法理・相当性の法理を乗り越える試み
1 はじめに
2 真実性の法理・相当性の法理への批判
3 真実性の法理・相当性の法理を乗り越える試み
4 国又は地方公共団体による公表
5 SLAPP
PART 3 意見・論評による名誉毀損
第12章 総論
1 はじめに
2 事実言明と論評の区別の意味
3 表現が「意見」か「事実」か
4 意見と事実の判断に関する具体的問題
第13章 意見・論評が社会的評価を低下させるか
1 はじめに
2 個人の感想・愚痴
3 反対意見・批判と名誉毀損
4 一方的主張
5 問題提起等
6 誹謗中傷
第14章 公正な論評の法理
1 法理の内容
2 法理への疑問
3 前提事実の一部に真実性・相当性がない場合
4 人身攻撃に及ぶ等意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと
PART 4 その他の諸問題
第15章 正当防衛・対抗言論
1 はじめに
2 先行する対象者の言動がある場合
3 対象者による事後的な対抗言論
第16章 正当な言論
1 はじめに
2 解雇等事実の公表
3 オークションの評価欄
4 その他
第17章 その他の抗弁事由
1 はじめに
2 名誉毀損後の事由
3 配信サービスの抗弁
4 訴訟行為
5 故意・過失の欠缺
6 その他
第18章 転載・リンクに関する諸問題
1 はじめに
2 摘示内容の特定
3 既に社会的評価が低下していることの影響
4 対象者自身による情報公開の影響
第19章 救済
1 はじめに
2 損害賠償
3 謝罪広告
4 削除請求・開示請求等
5 名誉感情侵害への救済
6 時効
第20章 名誉感情侵害(侮辱)
1 はじめに
2 名誉毀損との違い
3 社会通念上許容される限度
4 具体的な態様
5 侮辱罪と名誉感情侵害の不法行為
第3編 実務編
はじめに
1 基本的な対処方法
2 本編の構成
ケース1 公然性事案
1 問題の所在
2 実務上の判断のポイント
3 表現者(A)に対するアドバイス
4 対象者(B)に対するアドバイス
ケース2 仮名・匿名事案
1 問題の所在
2 実務上の判断のポイント
3 対象者(B)に対するアドバイス
4 表現者(A)に対するアドバイス
ケース3 会社事案
1 問題の所在
2 実務上の判断のポイント
3 表現者(A1A3)に対するアドバイス
4 対象者(B)に対するアドバイス
ケース4 口コミ事案
1 問題の所在
2 実務上の判断のポイント
3 表現者(A)に対するアドバイス
4 対象者(B)に対するアドバイス
ケース5 論争事案
1 問題の所在
2 実務上の判断のポイント
3 表現者(A)に対するアドバイス
4 対象者(B)に対するアドバイス
ケース6 転載事案
1 問題の所在
2 実務上の判断のポイント
3 表現者(A1及びA2)に対するアドバイス
4 対象者(B)に対するアドバイス
ケース7 総合事案1
1 問題の所在
2 実務上の判断のポイント
3 対象者(B1及びB2)に対するアドバイス
4 表現者(A1及びA2)に対するアドバイス
ケース8 総合事案2
1 問題の所在
2 実務上の判断のポイント
3 表現者(A)に対するアドバイス
4 対象者(B)に対するアドバイス
ケース9 総合事案3
1 問題の所在
2 実務上の判断のポイント
3 B(対象者)に対するアドバイス
4 A(表現者)に対するアドバイス
ケース10 総合事案4
1 問題の所在
2 実務上の判断のポイント
3 表現者(A)に対するアドバイス
4 対象者(B)に対するアドバイス
判例索引
事項索引
おわりに