インテグリティな日々

『憲法ガール』著者(弁護士)の大島義則が日々思ったことを綴ります。

妹ぱらだいす!2事件 ~東京都の不健全図書類の指定における新基準の初適用事案~

1 「妹ぱらだいす!2」事件について

 平成22年に東京都青少年の健全な育成に関する条例(以下「東京都健全育成条例」といい,条文のみ示す場合はこれを指す。)が改正され,近親相姦の描写がなされた「漫画,アニメーションその他の画像(実写を除く。)について不健全図書類として指定できることになった。

 その後,平成26年5月16日にこの新基準が「TECHGIAN STYLE 妹ぱらだいす!2 ~お兄ちゃんと5人の妹のも~っと!エッチしまくりな毎日~」(平成26年4月3日)に適用されて指定告示を受けた。今回,この「妹ぱらだいす!2」事件について,一定の調査を行ったので,ここでその情報を共有したいと思う。

 なお,東京都青少年健全育成審議会第647回の資料(http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/09_646_menu.html#647)を見ると,本事件のあらましが分かる。

 

 

2 新基準と規制の仕組み

 まず,事件の内容に入る前に,新基準の内容と規制の仕組みについて記載しておく。

① 自主規制

 平成22年改正により,販売事業者等は,「漫画、アニメーションその他の画像(実写を除く。)で、刑罰法規に触れる性交若しくは性交類似行為又は婚姻を禁止されている近親者間における性交若しくは性交類似行為を、不当に賛美し又は誇張するように、描写し又は表現することにより、青少年の性に関する健全な判断能力の形成を妨げ、青少年の健全な成長を阻害するおそれがあるもの」について「青少年に販売し、頒布し、若しくは貸し付け、又は観覧させないように努めなければならない」とする自主規制が課された(7条1項2号。平成23年4月1日施行)。これはあくまで努力義務であるため,これに違反したことによる罰則等はない。

② 個別指定

 7条1項2号に該当する「漫画、アニメーションその他の画像」について,さらに「強姦等の著しく社会規範に反する性交又は成功類似行為を,著しく不当に賛美し又は誇張するように,描写し又は表現することにより,青少年の性に関する健全な判断能力の形成を著しく妨げるものとして,東京都規則で定める基準に該当し,青少年の健全な成長を阻害するおそれがあると認められるもの」に該当すれば,不健全図書類として指定が行われる。

 ここで近親相姦規制に関する「東京都規則で定める基準」を抜き出すと下記のとおりである(東京都青少年の健全な育成に関する条例施行規則15条2項2号)。

近親者間(民法(明治29年法律第89号)第734条から第736条までの規定により、婚姻をすることができない者の間をいう。)における性交等を、当該性交等が社会的に是認されているものであるかのように描写し若しくは表現し、又は当該性交等の場面を、みだりに、著しく詳細に若しくは過度に反復して描写し若しくは表現することにより、閲覧し、又は観覧する青少年の当該性交等に対する抵抗感を著しく減ずるものであること。

③個別指定の効果

 詳細は条文を見ていただきたいが,大まかにいうと下記の効果が発生する。

 ・青少年への販売,頒布,貸付けの禁止規制

 ・包装,ゾーニング規制

第九条 図書類の販売又は貸付けを業とする者及びその代理人、使用人その他の従業者並びに営業に関して図書類を頒布する者及びその代理人、使用人その他の従業者(以下「図書類販売業者等」という。)は、前条第一項第一号又は第二号の規定により知事が指定した図書類(以下「指定図書類」という。)を青少年に販売し、頒布し、又は貸し付けてはならない

2 図書類の販売又は貸付けを業とする者及び営業に関して図書類を頒布する者は、指定図書類を陳列するとき(自動販売機等により図書類を販売し、又は貸し付ける場合を除く。以下この条において同じ。)は、青少年が閲覧できないように東京都規則で定める方法により包装しなければならない。

3 図書類販売業者等は、指定図書類を陳列するときは、東京都規則で定めるところにより当該指定図書類を他の図書類と明確に区分し、営業の場所の容易に監視することのできる場所に置かなければならない

4 何人も、青少年に指定図書類を閲覧させ、又は観覧させないように努めなければならない。

  これらに従わない場合には警告が発せられ,警告に従わないと刑罰を受ける(18条,25条)。

 

3 「妹ぱらだいす! 2」の指定のプロセス

 
 一般に指定は,以下の5つのプロセスでなされる。
 ①書店等の一般書棚に陳列されている図書を複数購入
 ②自主規制会議(通称「打合せ会」。18条の2第2項)における意見聴取
 ③②の結果を踏まえて青少年健全育成審議会に諮問(18条の2第1項)
 ④③の審議会が出す答申を踏まえて知事が不健全指定(8条)
 ⑤告示やウェブサイト等による公表
 
  妹ぱらだいす! 2事件でもこの指定のプロセスがとられた。具体的な経過は以下のとおりである。
 平成26年4月1日~平成26年4月28日までに123冊の図書が購入され(①),このうち「オール体験デラックスVol.1」(株式会社メディアックス,平成26年3月27日発行)と妹ぱらだいす! 2の2冊が指定候補となる。
 それを踏まえて,平成26年5月7日,自主規制団体との打合せ会が開催された(②)。打合せ会では,「オール体験デラックスVol.1」(株式会社メディアックス,平成26年3月27日発行)は指定該当との意見が多く,妹ぱらだいす! 2についてが指定非該当が多かった(内訳は指定該当7,中間1,指定非該当10)。具体的な意見については,http://www.seisyounen-chian.metro.tokyo.jp/seisyounen/pdf/09_singi/647/647siryou2..pdfを参照。この打ち合わせ会には,出版倫理協議会,首都圏新聞即売懇談会,東京都古書籍即売懇談会,出版倫理懇話会日本フランチャイズチェーン協会の者が参加した。
 そして,平成26年5月7日付けで上記2つの図書を東京都青少年健全育成審議会に対して諮問するための起案スタートし,平成26年5月8日,本部長レク,知事レクが行われ,平成26年5月12日付けで東京都知事から東京都青少年健全育成審議会に対して諮問が行われた(③)。そして同日付けで,東京都青少年健全育成審議会会長から東京都都知事に対して指定が適当であることの答申が出され,同日に東京都都知事は上記2作品につき指定の決定を行い(④),5月16日付けで指定告示がなされた(⑤)。
 なお,5月12日には,記者向けの記者レクが行われている。また,株式会社メディアックスと株式会社KADOKAWAに対しては指定の通知がなされた。この指定の通知書には「なお,指定された不健全な図書類は,青少年(18歳未満の者)に販売し,頒布し,又は貸し付けてはならず,違反者に対しては警告が発せられ,それに従わず,なお,違反した場合は,条例第25条の規定に基づき30万円以下の罰金に処せられます。」との記載がある。

4 まとめ

 妹ぱらだいす!2事件についての事実経過でわかったことは以上のとおりである。様々な法的問題点を含む事件であると考えるが,法的問題点については機会を改めて考察したい。