インテグリティな日々

『憲法ガール』著者(弁護士)の大島義則が日々思ったことを綴ります。

平成25年司法試験公法系第1問

【平成25年司法試験公法系第1問】

第1 設問1
 1 Aは,デモ申請不許可処分(以下「処分①」という。)の処分要件を定めたB県集団運動に関する条例(以下「運動条例」という。)3条1項4号・B県住民投票に関する条例(以下「投票条例」という。)14条1項2号及び同3号は,憲法21条1項に基づき保障されるデモ行進の自由を侵害し違憲であり,B県は国家賠償法1条1項の責任を負うと主張する。
 一般市民は様々なデモ行進に帰属・参加することを通じて自己のアイデンティティを確立しながら対外的に意見表明を行う。また,マスメディアに対する有効なアクセス権をもたない一般市民にとって,デモ行進は安価で効果的に政治参加を行う重要な手段である。そのためデモ行進の自由は動く「集会」として憲法21条1項による保障を受ける。運動条例3条1項柱書はデモ行進の自由に対する事前許可制を定めているが,かかるデモ行進の重要性に鑑みれば事前許可制は原則として違憲であり,生命・身体等の公共の危険に対する明らかに差し迫った危険が具体的に予見される必要最小限度の不許可事由が備えられている場合に限り合憲となる。
 運動条例3条1項4号は不許可事由につき「明らか」と定めるだけであって,明らかに差し迫った危険が具体的に予見される場合に限定されておらず,違憲である。また,投票条例14条1項2号は「平穏な生活環境を害する行為」を不許可事由としているが,その保護法益は生命・身体等の優越的法益に限らず「平穏な生活環境」という極めて主観的かつ無限定なものである。また同3号は「商業活動に支障を来す行為」を不許可事由とし,営業活動の自由(憲法22条1項)や財産権(同29条1項)を保護しようとしているものと考えられるが,精神的自由に劣後する営業活動の自由に基づきデモ行進の自由を制約しうるものではない。
 よって,これらの規制は憲法21条違反であり,B県は国家賠償責任を負う。
 2 仮にこれらの規制が法令として合憲であったとしても,それは明らかに差し迫った危険が具体的に予見される必要最小限度の場合に不許可事由を合憲限定解釈する限りにおいて,合憲となるだけである。すなわち,運動条例3条1項4号の「明らか」とは,明らかに差し迫った危険が具体的に予見される場合と解すべきである。また,投票条例14条1項2号はデモ行進の自由を制約しうる程度の保護法益,すなわちプライバシー等の人格的利益を保護法益にしていると解すべきであり,「平穏な生活環境を害する行為」とはかかる人格的利益に対する著しい侵害があった場合に限定解釈すべきである。同3号も営業の自由や財産権保障の保護法益の観点から必要最小限度の範囲内で合憲になるに過ぎないので,営業それ自体を不可能にしたり,財産の使用・収益・処分に対する直接的侵害がある場合に限り「商業活動に支障を来す行為」に該当すると解すべきである。
 Aは第1回,第2回のデモ行進の際に拡声器等を使用せず,ビラの類も配布しておらず,定められた許可条件も遵守している。つまり,極めて平穏な態様でデモ行進を行っており,人格的利益に対する著しい侵害はないので,同2号に該当しない。また,第1回,第2回のデモ行進の際に飲食店の売上げが減少したとの苦情が県に寄せられているが,単に苦情が寄せられただけで現に売上げが減少したか不明であり,売上げが減少したとしても,それがどの程度の額減少したのかも明らかにされていない。そもそもデモ行進に伴い付随的に周辺の飲食店にある程度の影響が出ることは許可に織り込み済みの事情であって,多少の売上減少があったとしても3号に該当する事情に該当しない。
 よって,処分①は処分要件を満たしておらず違法であり,B県は国家賠償責任を負う。
 3 Aは,教室使用不許可処分(以下「処分②」という。)につき,ニュースで流されたAの発言が県政批判に当たることからB県立大学教室使用規則(以下「規則」という。)に基づき不許可としているが,これは学問の自由(憲法23条)や表現の自由(憲法21条1項)を侵害し,違憲であると主張する。他の精神的自由と独立した条項で学問の自由が保障されている趣旨は,真理の探究を目的とする学問が歴史的に政府による恣意的濫用に晒されてきており,反政府的な内容となりがちな学問をその性質上,政府の権限濫用から特に保護すべき要請が強いからであり,特定の見解に基づき見解規制を加えることは憲法23条に違反する。また,見解規制は個人の思想内容の自律的決定に対する直接的侵害であるだけでなく,思想の自由市場に流れる情報内容を歪曲し,ひいては民主的政治を不可能にするため憲法21条の趣旨に照らして許されない。よって,処分②は,憲法23条,21条に違反する。
 また処分②が見解規制であって憲法23条や同21条1項の趣旨に照らして危険であることに鑑みれば,規則の運用・適用には厳格な比例原則や平等原則(憲法14条1項)に服する。大学側はゼミ活動目的での申請であり,かつ,当該ゼミの担当教授が承認していれば許可する運用を行っている。Cゼミのテーマは,「人間の尊厳と格差問題」であり,Aはこのテーマの下で「格差問題と憲法」をテーマにする講演会を行おうとしており,ゼミ活動の目的での申請であり,これにはC教授の承認もある。したがってAの申請は従前の規則運用であれば許可されていたものであって,この運用から外れた処分②はAの反政府的な思想内容を狙い打ちにするなどの不当な動機が推認され,比例原則に違反する。また,大学側はAらのデモ行進が県条例に違反することを処分②の根拠としているが,このような事実はなく重大な事実誤認があり,この点でも比例原則違反がある。さらに,Cゼミ主催の講演会は政治的色彩が強いと判断して大学側は規則の「政治的目的での使用」に該当するとしているものと考えられるが,経済学部ゼミが2名の評論家を招いて行う「グローバリゼーションと格差問題:経済学の観点から」をテーマにした講演会は許可されていることと比較すると,処分②は合理的理由なくAらのみを「政治的目的での使用」に該当すると判断している。Aらは,知事の施策方針に反対する県議会議員のみならず,賛成する県議会議員を招くとともに,C教授による法学的な講演も予定しており,経済学部ゼミと同等の政治的中立性を備えているため,Aらのみを「政治的目的での使用」に該当すると判断することに何ら合理的理由なく平等原則に反する。
 よって,処分②は憲法14条1項,21条1項,23条に反し違憲違法であり,県は国家賠償責任を負う。

(以下略)