インテグリティな日々

『憲法ガール』著者(弁護士)の大島義則が日々思ったことを綴ります。

1 基本書

芦部信喜高橋和之補訂)『憲法[第5版]』(岩波書店,2011年)

憲法 第五版

憲法 第五版

 いわずと知れた芦部憲法。憲法学において「伝統的通説」,「支配的見解」といえば,芦辺説を指す。司法試験の憲法においては「判例又は主要学説」に基づく論述が要求されるが,ここでいう「主要学説」とは芦部説のことと言っても差し支えない。もっとも本書は憲法学全体を勉強するためには薄く,「行間を読む」必要があると言われる。また芦部先生亡き後の判例・学説等の変遷を十分に本書だけではフォローアップできないこともある。そのため,これらの点は他の基本書で補充しながら勉強する必要はある。

佐藤幸治日本国憲法論』(成文堂,2011年)

日本国憲法論 (法学叢書 7)

日本国憲法論 (法学叢書 7)

 
 芦部憲法と双璧をなす佐藤憲法。佐藤幸治先生の基本書といえば青林書院の『憲法』(1995年)であったが,2011年についに待望の基本書が出された。青林書院の『憲法』のほうは人格的自律権に基づくトップダウン式の理論体系が開示されており,佐藤先生の理論体系は理解しやすいが,本書のほうは多数の判例に網羅的に言及するとともに綺麗に整理されており,いわばボトムアップ式の本といえる。本書は青林書院の本と比較すると,実務にも配慮した簡易な記述が心がけられていると思うが,その背景には禍々しいほど圧倒的な思考の渦が潜んでいるように思われる。芦部憲法についても現代憲法学の立場からの「読み替え」や「再解釈」がよく行われるが,今後は佐藤憲法についても本書それ自体を対象とした解釈学が形成されていくのではないか(例えば,土井真一「憲法訴訟の当事者適格論の検討」法学教室384号72頁の佐藤学説の再解釈などが今後展開されていくことと思われる)。
憲法 (現代法律学講座 5)

憲法 (現代法律学講座 5)

野中俊彦=中村睦男=高橋和之=高見勝利『憲法Ⅰ・Ⅱ[第5版]』(有斐閣,2012年)

憲法1 第5版

憲法1 第5版

憲法2 第5版

憲法2 第5版

 野中俊彦,中村睦男,高橋和之,高見勝利の各先生方4人の共著であるため,通称「4人本」と呼ばれる。芦部学説との親和性が高い上に,共著であるため客観的・中立的な記述に努められている。記述の客観性・中立性や情報量も多さから,択一用勉強用に備えておくと便利である。

その他(高橋憲法,長谷部憲法,松井憲法,渋谷憲法等)

立憲主義と日本国憲法 第3版

立憲主義と日本国憲法 第3版

憲法 (新法学ライブラリ)

憲法 (新法学ライブラリ)

日本国憲法 第3版

日本国憲法 第3版

憲法 第2版

憲法 第2版

 司法試験では「判例又は主要学説」に基づく勉強が求められるため,基本的には芦部憲法や佐藤憲法をマスターすべきであるが,さらにその上で現代の憲法学が何を考えているのかを知ることは有用である。高橋憲法,長谷部憲法,松井憲法,渋谷憲法……と百家争鳴状態の憲法学説に目を向けることで,多角的な視点が養われるかもしれない。